2004年6月21日午前0時ジャスト。伝ちゃんはお空に旅立ちました。

4月下旬。調子が良くなかった伝兵衛。4月29日、夜中に緊急手術していただき、脾臓全摘。その後病理の結果「血管肉腫」と認定され、余命2カ月と宣告されました。 手術の時すでに危ない状態だと言われ、覚悟を決めるように先生から告げられました。
手術は無事成功して一命を取り留めた伝ちゃん。後日病理結果で余命を宣告されても、すでに覚悟は出来ていたので動揺はありませんでした。
残された時間は、夜中の緊急手術で力を貸して下さったみなさんからのプレゼントです。嘆いていては頑張って下さった人たちに失礼ですから、最後まで明るく笑って見送ってやろうと決めました。

5月17日頃からまた様子があやしくなり、18日に再び先生に診ていただくとまたしても内臓から出血。しかも今回は切っても、取れない部分かもしれない可能性が高く、手術自体も前回の時よりも危険度が増しているとのこと。

スタッフたちと話し合い、手術は断念して、自宅で静かに見送ろうと言うことになりました。
その時すでに「今日明日です」と言われました。

仕事を自宅作業に切り替えてもらい、出来るだけ伝ちゃんの側を離れず過ごせるように、買い物もまとめて殆ど引きこもり状態で過ごしていました。 それでも「今日明日」と言われた日から33日間も踏ん張りました。何でもすぐに諦める根性の無しの伝兵衛にしたら、上出来です。

伝兵衛が初めてやって来た1994年のクリスマスの日を、今でもはっきり覚えています。折しもその日は競馬のオグリキャップ引退記念試合で、感動の優勝をした日だったと思います。
「わんわんランド、繁殖直売ゴールデン祭」なんていかにも胡散臭いフェア出身の伝兵衛。ゴールデンの小犬がうじゃうじゃたくさんいた中で、一番奥のゲージの隅っこで、兄弟達に踏まれてじっとしていた臆病なわんこが伝兵衛でした。
性格は最後まで臆病でしたが、小犬の無邪気さをずっと持っていました。
どんな嫌なことされても、決して怒らなかった伝兵衛。そんな優しい性格に育ったのもみなさんのお陰です。

伝兵衛にとって、人間の存在は警戒するのもではなく、差し伸べられた手は痛みを生み出すモノでなかったこと。常に無防備でいられ、どこへ行っても全面的に人間に頼り、安心してへそ天で爆睡出来たことはとても幸せだったと思います。

伝兵衛は生涯の中で、とてもたくさんの人に出会い可愛がって頂きました。いつでも油断と隙だらけで、野生のかけらも感じなかった伝兵衛ですが、みなさんのお陰で、明るく愛想の良い子に育ち、誰にでも懐く「得な性格」になったと思います。
残念ながら10年にも満たない短い生涯でしたが、雷とお留守番が苦手だった事と、時々おやつを横取りされる事以外、あまり嫌なことも無く、それなりにご機嫌に過ごせていたと思います。

伝ちゃんはいつも明るい子でした。今頃耳をぷらぷらさせて、楽しそうに雲の上を走り回っていると思います。そしてときどきふかふかの雲に頭を乗せて、わうわう寝言を言いながら居眠りしたり、ご機嫌に過ごしているに決まっています。

私もこれからは雲の上で伝兵衛に再会する日が来るまで、彼のことを忘れずに、くるみと一緒にご機嫌に過ごしたいと思っています。私が一番辛かった時から一緒に過ごしてくれて、そしてもう大丈夫と安心したんだと思います。とても安らかに静かに去って行きました。
癌に冒されながらも伝ちゃんは精一杯最後まで生きたと思います。
最後の日までのりこ夫人、ちえチュウ、浅野、そしてくるみにも囲まれ、大好きな先生にも何度も来ていただき、とても幸せそうに過ごしていました。
寝たきりになったのもほんの数日でしたし、最後もあまり苦しまずに、受付主任らしく玄関から旅立ちました。
そしてそんな伝兵衛を、最後の瞬間までずっとそばにいて、最後は私の腕の中で旅立たせてやれたことを幸せに思います。

私の仕事環境が、それを許される環境だったことと嫌な顔せずに見守ってくれたスタッフのみんな。外に出られない私の変わりに、買い出しに行ってくれたり、お留守番を引き受けてくれた元スタッフののりこ夫人と、遠いところ何度も様子を見に来てくれたちえチュウ。わざわざ焼き芋を焼いて下さったスタッフ浅野のお母さんと、ご自分の具合も良くないのに雨の中それを届けて下さったお父さん。毎日仕事帰りに寄ってくれて、私に仮眠時間をくれたスタッフ浅野。いつも様子を気にかけて下さり頭を撫でて下さった大家さん。遠くからお見舞いに来て下った人たち。お忙しい中、新婚なのに時間を割いて毎日一日も欠かすことなく往診に来て下さった先生と、何度も休日を裂いて来て下さった先生の奥様。伝兵衛が最後に口にしたのは奥さんが食べさせて下さったプリンでした。きっととても美味しかったと思います。

本当に有り難うございました。

小犬の頃から大変お世話になった、H先生。 公私ともに感謝の言葉も足りないくらいお世話になった、H先生とVTの皆さん。手術の時お世話になったH先生。(H先生ばっかりか!)輸血を提供してくれたI動物病院のわんこ。メールでいろいろアドバイスを下さった皆さん。お見舞いを送って下さった皆さん。
大型犬2匹、家の中で暮らすことを許可して下った大家さん。おかげさまで伝ちゃんの闘病生活はとても静かな良い場所で、快適に過ごすことが出来ました。本当に有り難うございました。
あなた達に出会えた伝兵衛は本当にラッキーでした。一緒に過ごして下さった時間はとても幸せなものだったと思います。

伝兵衛の頭を撫でて下さったみなさん、伝兵衛に声を掛けて下さったみなさん、遠くからいつも応援して下さっていたみなさん、全ての方々に心よりお礼申し上げます。有り難うございました。

そして伝兵衛。たくさんの楽しい時間といろんな出会いを有り難う。伝ちゃんを通して出会った人たちはみんな良い人ばかりだったよ。伝ちゃんは最後までぼーっとしてどんくさい子だったけど、とっても良い子だったね。最後までエビの尻尾がエビだと信じていた伝ちゃん。ずっと大好きだよ。伝ちゃんがいなくなって、寂しいけれど悲しくはないよ。だから安心して。伝ちゃんが食べ物を見つめていた真剣な眼差しと、耳の後ろのふかふかの毛の感触。それから伝ちゃんの肉球の臭い。ずっと忘れないよ。有り難う。

命ある全てのものに、LOVE&肉球。


ひなたあつこ拝